この記事でわかること
- 看取りが近づく前後で、薬の必要性がどう変わるか
- 減薬が「治療の放棄」ではない理由
- ご家族が減薬を受け入れにくいと感じる背景
- 減薬を伝えるときに大切にしていること
- 薬剤師にできること
終末期が近づいた患者さんが体調を崩して一時入院すると、それまで飲んでいた薬の多くが減らされたり、中止になったりすることがあります。「治療をやめられてしまった」「見放された」と感じてしまうご家族もいますが、これは医学的にきちんとした理由がある対応です。
今回は、看取りが近づいた時期になぜ薬が減っていくのか、その考え方についてお伝えします。
看取りが近づく前は薬の種類がもっとも多い
看取りの時期に入る前の高齢の患者さんは、血圧、コレステロール、糖尿病など、生活習慣病に関する薬を何種類も服用していることが少なくありません。これらの薬は、将来の脳卒中や心筋梗塞といった合併症を防ぐことを目的とした、いわば「先を見据えた治療」です。
看取り期に入ると、多くの薬が「必要なくなる」
一方、体調が急変して入院し、余命について医師から説明を受ける段階になると、これらの薬の多くは見直しの対象になります。バイタル(血圧・脈拍などの生命兆候)が低下していく看取りの時期には、将来の合併症を防ぐための薬は、その効果を発揮する時間がすでに残されていないことが多く、体への負担だけが残ってしまいます。血栓を防ぐ抗凝固薬のように継続されることもありますが、これも本人・ご家族が積極的な延命を望まない場合は、中止の対象になることがあります。

「薬をやめる=治療をやめる」ではありません。今の体にとって、本当に必要な薬だけを残していく、という考え方です。
飲み込む力の低下も、減薬を後押しする理由に
看取りが近づく時期には、飲み込む力(嚥下機能)そのものが低下していくことも少なくありません。錠剤の数が多いと、それだけで誤嚥のリスクが高まったり、服薬自体が本人にとって大きな負担になったりします。将来の合併症予防を目的とした薬を減らすことは、こうした身体的な負担を減らすことにもつながります。
「見放された」と感じてしまうご家族もいる
病院で余命予後について説明を受けたうえでの減薬・中止であっても、それを冷静に受け入れられないご家族を見てきました。大切な家族の命に関わる話であり、医学的な知識がない中で急にこうした説明を受ければ、動揺したり、受け入れがたく感じたりするのは、無理もないことだと思います。

「治療を諦めた」ように見えても、実際には「今のご本人に合った治療に切り替えた」という理解の方が近いです。
がん告知の広がりが、受け入れやすさにも影響している
近年は、がんの告知そのものが積極的に行われるようになってきました。厚生労働省の全国遺族調査などによると、1990年前後のがん告知率は15%程度でしたが、2020年の院内がん登録の集計では、初回治療開始時点で病名告知がされていない事例は全体のわずか3%にとどまっています。
本人・ご家族があらかじめ病状や見通しを共有できていると、看取りの時期における減薬についても、比較的受け入れられやすい傾向があるように感じます。一方で、まれにではありますが、「治療を諦めてほしくない」という思いから、寝たきりで意識レベルが低下している状態でも、10種類以上の薬の継続を望まれるご家族に出会うこともあります。

ご本人・ご家族が病状をどこまで共有できているかによって、減薬への受け止め方は大きく変わると感じています。
減薬を伝えるときに大切にしていること
減薬を提案する際は、「薬をやめます」という伝え方ではなく、「今のご本人にとって、負担になっている薬を見直します」という伝え方を意識しています。何のために続けている薬なのか、そしてなぜ今その目的が果たせなくなっているのかを、一つひとつ説明することで、納得していただきやすくなると感じています。
薬剤師にできること
在宅や施設を訪問する薬剤師は、日々の服薬状況や、本人の様子の変化を継続的に見ている立場にあります。医師が診察のタイミングだけでは気づきにくい変化(飲み込みにくさが増えた、薬の数が本人の負担になっているなど)を伝え、減薬のタイミングを医師と一緒に検討することも、薬剤師の大切な役割です。
ご家族が減薬の説明に納得しきれない場合も、間に入って、薬の目的や体への影響を、あらためて分かりやすくお伝えすることができます。
よくある疑問
抗凝固薬(血をサラサラにする薬)は、なぜ最後まで続くことがあるのですか?
抗凝固薬は、血栓による急な苦痛(脳梗塞などによる麻痺や意識障害)を防ぐ目的で使われることがあり、他の生活習慣病の薬とは少し性質が異なります。ただし、これも本人・ご家族の意向によって、継続するか中止するかが変わる部分であり、絶対に続けなければならないものではありません。
ご家族の間で意見が分かれてしまったら、どうすればいいですか?
このような場面は、決して珍しくありません。あらかじめACP(人生会議)として、本人の意思をご家族全体で共有できていると、いざというときの混乱を減らせる場合があります。すでに意見が分かれてしまった場合は、無理に急いで結論を出そうとせず、医療・ケアチームを交えて、時間をかけて話し合う機会を持つことをおすすめします。
まとめ
✅看取りが近づく前は、生活習慣病の薬を多く服用していることが一般的です
✅バイタルが低下する看取りの時期には、多くの薬がその役割を終えます
✅「見放された」と感じてしまうご家族がいるのは、無理もないことです
✅がん告知の広がりとともに、減薬への理解も広がりつつあります

薬が減っていくことに不安を感じたときは、「なぜその薬が今は必要ないのか」を、遠慮なく医師や薬剤師に聞いてみてください。
【参考文献】
・m3.com「『医師の裁量の範囲』から『義務』へ【平成の医療史30年◆がん告知編】」
https://www.m3.com/news/open/iryoishin/660598
・弁護士法人ふくざき法律事務所「がんの病名告知と説明義務(平成14年9月24日最高裁判決)」
https://fukuzaki-law.jp/iryouhoumu/95/
-導入時に感じる不安とその答え.png)
