この記事でわかること
- ACP(人生会議)とは何か
- 「本人の意思確認」だけでは不十分な理由
- 現場で感じるACPが広まりにくい理由
- 薬剤師がACPに関わる意味
- ACPを実効性のあるものにするためのポイント
先週、施設に入居されているある患者さんが、発熱のため入院になりました。入居時には「体調が急変しても施設で対応し、救急搬送はしない」「施設での看取りを希望する」という意思確認ができていました。しかし、いざそのときになって、ふだん関わりの薄かったご家族が搬送を強く希望し、対応が遅れたことに強い不満を示されました。
私はACPファシリテーターの資格を持ち、数年前から人生会議の普及に取り組んでいますが、この出来事は、ACPの「できているつもり」がどれほど脆いものかを、改めて突きつけられる経験でした。
ACP(人生会議)とは
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、厚生労働省が「人生会議」という愛称で普及を進めている取り組みで、将来の医療やケアについて、本人を中心に家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合っておくプロセスです。人生の最終段階になると、約7割の方がご自身で意思決定できない状態になるとされており、あらかじめ本人の意思を確認し、共有しておくことが重要とされています。

ACPは一度決めたら終わりではなく、繰り返し話し合っておくことが大切なプロセスです。
「本人の意思確認」ができていても、家族間で共有されていなければ意味がない
先週経験した事例をお話しします。施設に入居されているある患者さんは、入居時のご本人・配偶者との話し合いで、「体調が急変しても施設で対応し、救急搬送はしない」「施設での看取りを希望する」という意思確認ができていました。発熱した際も、この方針に沿って解熱剤やクーリングで対応していました。
しかし、この決定に関わっていなかったご兄弟が、いざというときに搬送を強く希望されました。結果として対応が遅れ、そのことに強い不満を示されることになりました。本人・配偶者の間では十分に話し合われていたにもかかわらず、その内容が他の家族に共有されていなかったことが、今回の混乱の一番の原因でした。

ACPで一番見落とされがちなのが、「誰と話し合ったか」の範囲です。本人・配偶者だけでなく、いざというときに口を出す可能性のある家族全員に共有できているかが重要です。
現場で感じる、ACPが広まりにくい理由
私自身、数年前からACP・人生会議の普及に取り組んできましたが、正直なところ、なかなか広がっていないと感じています。ご家族に必要性を説明すると、頭では納得していただけることがほとんどです。しかし、いざ本人と「死」というテーマについて話すとなると、「まだ早い」「縁起でもない」と、話し合い自体が先延ばしにされてしまうことが多いのが実情です。
ACPというと、医師や看護師、ケアマネジャーが担うものというイメージを持たれる方が多いかもしれません。実際には、薬剤師もACPファシリテーターとして関わることができ、私自身もその資格を持って活動しています。
在宅や施設を定期的に訪問する薬剤師は、医師や看護師よりも患者さんやご家族と接する頻度が高いことも少なくありません。服薬の相談をきっかけに、生活や体調の変化、将来への思いといった話に自然に発展することもあり、そうした日常的な関わりの中でACPのきっかけを作れるのは、薬剤師ならではの立場だと感じています。

必要性は理解されても、本人を目の前にして死について話すことの心理的なハードルは、想像以上に高いと感じています。
ACPを実効性のあるものにするために
今回の事例から言えるのは、ACPは「本人と話し合って決めた」だけでは不十分で、その内容を、いざというときに関わる可能性のある家族全員に共有しておく必要がある、ということです。
具体的には、次のような点を意識することをおすすめします。
✅話し合いには、同居していない家族や、疎遠になっている家族の存在も考慮する
✅決定内容を、口頭だけでなく書面(エンディングノートなど)に残しておく
✅定期的に内容を見直し、家族間で再共有する機会を持つ
すべての家族を毎回集めるのは現実的に難しい場合もありますが、少なくとも「誰が決定に関わっていて、誰が知らないか」を意識しておくことが、今回のようなトラブルを防ぐ第一歩になります。

本人の意思を確認するだけでなく、「その情報が誰に届いているか」まで意識することが、ACPを本当に意味のあるものにする鍵だと思います。
よくある疑問
家族の意見が分かれたときは、どうすればいいですか?
決まった正解はありませんが、本人の意思が確認できている場合は、それを軸に、なぜその意思が示されたのかという背景(価値観や思い)を、意見の異なる家族に丁寧に伝えることが重要です。医療・ケアチームが間に入って説明することで、納得を得やすくなる場合もあります。
本人が話し合いに前向きでない場合、どうすればいいですか?
無理に話を進める必要はありません。「今はまだ決めなくていい」という気持ちも尊重しながら、日常会話の延長で、少しずつ価値観や希望を聞いていくアプローチも一つの方法です。ACPは一度で完成させるものではなく、時間をかけて繰り返し行うプロセスです。
何をきっかけに話し合いを始めればいいですか?
いきなり「もしものときはどうしたい?」と切り出すのではなく、「最近テレビでこんな話を見た」「知り合いがこういう選択をしたらしい」といった、身近な話題から始めるのがおすすめです。誕生日や年末年始など、家族が自然に集まるタイミングを利用するご家庭もあります。
まとめ
✅ACP(人生会議)は、本人を中心に家族や医療・ケアチームが繰り返し話し合うプロセスです
✅本人・一部の家族だけで決めても、他の家族に共有されていなければ、いざというときに混乱が生じます
✅必要性は理解されても、死について話すことへの心理的ハードルは高いのが現実です
✅話し合いの範囲を広げ、内容を書面で残し、定期的に見直すことがACPを実効性のあるものにします

ACPは、決めることよりも「共有すること」が本当は一番難しく、一番大切なのだと、この経験を通じて改めて感じています。ご家族の中で意見が分かれそうな場合は、早めに医療・ケアチームに相談してみてください。
【参考文献】
・厚生労働省「人生会議」してみませんか
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html
・厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(解説編)」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197702.pdf

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