在宅の医療用麻薬(オピオイド)、導入時に感じる不安とその答え

介護と薬

この記事でわかること

  • 「麻薬」という言葉への抵抗感について
  • 精神的な依存への不安と実際のデータ
  • 呼吸抑制の仕組みと、まれである理由
  • 少量から調整していく使い方の考え方
  • ご家族が自分を責めないために知っておきたいこと

在宅でがんの痛みや呼吸困難に対して医療用麻薬(オピオイド)を導入するとき、ご本人・ご家族が不安を感じるのは、ごく自然なことです。

今回は、実際に現場でよく聞かれる不安と、それに対してどうお伝えしているかについてまとめました。

最初のハードルは「麻薬」という言葉そのもの

医療用麻薬の導入を提案すると、多くの方がまず抵抗を示されます。「麻薬」という言葉には、依存性や違法薬物のイメージが強く結びついているため、抵抗を感じない方が珍しいと言えるほどです。

ただ、実際に激しい痛みや呼吸困難を抱えている場面では、状況が少し変わります。「この苦痛から少しでも解放されたい」「してあげたい」という思いが勝り、最近では頭ごなしに拒否されることはほとんどなくなってきたと感じています。

Ph.そら
Ph.そら

「麻薬」という言葉の響きに抵抗を感じるのは自然なことです。ただ、痛みや息苦しさが強いときは、それを取り除くための大切な選択肢だということも知っておいてください。

精神的な依存への不安

「使い続けると依存してしまうのでは」という不安もよく聞かれます。しかし、がんの痛みに対して医療用麻薬を使用した場合、精神的な依存が生じることは非常にまれであることが分かっています。海外の研究では、がん患者を対象にした調査で、精神依存が確認されたのは0.2〜2%程度にとどまるという報告もあります。痛みのために必要な量を使うことと、依存とは、本質的に別のものです。

副作用の説明が生む、もう一つの不安

医療用麻薬を導入する際は、傾眠、便秘、嘔気といった副作用に加えて、呼吸抑制についても説明する義務があります。この呼吸抑制の説明が、ご家族に強い恐怖感を与えてしまうことが少なくありません。

私は、この不安を少しでも和らげるために、次のような仕組みをお伝えするようにしています。痛みそのものが、オピオイドによる呼吸抑制の働きに対して、ブレーキのように作用する性質があります。そのため、痛みに合わせて適切に量を調整しながら使用している限り、呼吸が止まってしまうような重篤な呼吸抑制が起こることは、実際にはまれです。逆に注意が必要なのは、他の治療(神経ブロックなど)で急に痛みが大きく軽減したのに、オピオイドの量をそのままにしてしまった場合など、痛みとのバランスが崩れたときです。

Ph.そら
Ph.そら

「量が多いから危険」というより、「痛みとのバランスが崩れたときに注意が必要」と考えると分かりやすいと思います。

少量から始めて、様子を見ながら調整していく

医療用麻薬は、最初から多い量を使うわけではありません。少ない量から開始し、痛みの様子を見ながら、必要な分だけ少しずつ増やしていくのが基本的な進め方です。この「痛みに合わせて調整する」というプロセスがあるからこそ、必要以上に多い量になりにくく、重篤な副作用も起こりにくくなっています。

急に量を増やしたり、逆に自己判断で減らしたりすると、このバランスが崩れやすくなります。眠気や便秘といった副作用も、量の調整とあわせて対策していくものなので、気になる症状があれば、我慢せずその都度伝えていただくことが大切です。

レスキュー使用後の急変、ご家族を責めないための一言

在宅では、痛みが強くなったときに使う「レスキュー」と呼ばれる頓用の医療用麻薬を、ご家族が投与することがあります。私が特に気をつけているのは、レスキューを使用したあとにもしものことがあった場合、投与したご家族が自分を責めてしまわないようにすることです。

がんの終末期には、レスキューの使用とは関係なく、病状の進行によって急変が起こることがあります。私はあらかじめ、「レスキューを使った後に万が一のことがあっても、その原因が投薬にあるとは限らない」ということを、ご家族にお伝えするようにしています。この一言があるかないかで、その後のご家族の心の負担は大きく変わると感じています。

Ph.そら
Ph.そら

「自分が薬を使ったせいで」と、ご家族が自分を責めてしまうことがないように、あらかじめお伝えしておくことを大切にしています。

正しく使えば、医療用麻薬は強い味方になる

医療用麻薬は、正しく使えば、がんの痛みや呼吸困難に苦しむ患者さんにとって、大きな支えになる薬です。副作用のリスクを伝えることは薬剤師の大切な役割ですが、その説明によって患者さんが必要以上に恐れ、本来受けられるはずの症状緩和を拒んでしまうとしたら、それは本末転倒です。リスクを正確に伝えることと、不安をあおらないことは、両立できると考えています。

Ph.そら
Ph.そら

副作用の説明は義務ですが、それによって必要な薬を怖がって使えなくなってしまっては意味がありません。リスクと安心材料は、セットでお伝えするようにしています。

よくある疑問

保管方法に特別な注意は必要ですか?

医療用麻薬は、他の家族が誤って使用したり、紛失したりしないよう、鍵のかかる場所での保管が推奨されています。残った薬の取り扱いについても、自己判断で処分せず、薬局に相談してください。

眠気が強く出て心配です

使い始めや増量時には、一時的に眠気が強く出ることがありますが、多くの場合は数日で慣れてくるとされています。眠気が長く続く場合や、日常生活に支障が出るほど強い場合は、量の調整ができることもあるため、遠慮なく相談してください。

便秘がひどくて困っています

便秘は、眠気とは異なり、使い続けても体が慣れにくい副作用です。そのため、医療用麻薬を開始するタイミングで、便秘に対する薬もあわせて使うことが一般的です。すでに便秘に困っている場合も、我慢せず相談してください。下剤の種類や量を調整することで、改善できることが多くあります。

医療用麻薬を使うと、寿命が縮まるのではないかと心配です

専門的な緩和ケアを受けているがん患者を対象にした研究では、医療用麻薬の使用が生命予後を縮めるという根拠は示されていません。痛みを我慢することの方が、体力を消耗させてしまう場合もあります。この不安を理由に、必要な痛みの緩和をためらう必要はありません。

まとめ

✅「麻薬」という言葉への抵抗は自然な反応ですが、痛みや息苦しさを取り除く大切な選択肢です
✅がん疼痛に対する使用で精神的な依存が生じることは非常にまれです
✅痛みとのバランスを保って使用している限り、重篤な呼吸抑制はまれです
✅レスキュー使用後の急変は、投薬が原因とは限らないことを知っておいてください

Ph.そら
Ph.そら

医療用麻薬への不安は、多くの場合「知らないこと」から来ています。導入を検討する際は、遠慮なく疑問や不安を薬剤師にぶつけてみてください。

【参考文献】
・日本臨床腫瘍学会「がん診療ガイドライン|がん疼痛薬物療法|患者のオピオイドについての認識」
http://www.jsco-cpg.jp/item/23/intro_03-6.html
・医書.jp「オピオイドを投与すると呼吸抑制が起こる機序とは」(LiSA 21巻8号)
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.3101102186

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