📋 この記事でわかること
✅ レキサルティがアルツハイマー型認知症のアジテーションに使われるようになった背景
✅ 適応はアルツハイマー型認知症のアジテーションのみ・BPSDすべてに使えるわけではない
✅ 抑肝散・リスパダール・セロクエル・エビリファイとの違い
✅ 現場での効果の印象と用量の個人差
✅ 注意すべき副作用
✅ CYP2D6・CYP3A阻害薬との相互作用と用量調節の目安
在宅や施設の現場で、アルツハイマー型認知症患者さんの興奮・攻撃的言動に対してレキサルティが処方されているケースが増えています。
2024年9月に「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感・易刺激性・興奮に起因する過活動または攻撃的言動」の適応が追加され、国内でこの適応を持つ初めての薬となったレキサルティ。
「どんな患者さんに向いているの?」「今まで使っていた薬とどう違うの?」「CYP相互作用が複雑で…」
そんな疑問に、薬剤師の視点からわかりやすく解説します。
アジテーションとは?BPSDの中での位置づけ
アジテーションとは、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)のうち、焦燥感・易刺激性・興奮・攻撃的言動・過活動などをまとめた概念です。
BPSDは非常に幅広い症状の総称ですが、アジテーションはその中でも介護者の負担が特に大きく、施設での対応が難しい症状のひとつです。
💡 アジテーションに含まれる主な症状
🔸 焦燥感・いらいら
🔸 易刺激性(些細なことで怒る)
🔸 興奮・大声・叫び
🔸 攻撃的言動(暴言・暴力)
🔸 過活動・落ち着きのなさ
一方でBPSDには幻覚・妄想・抑うつ・アパシー・徘徊なども含まれますが、これらはレキサルティの適応外となります。
BPSDの詳しい内容については以下の記事もあわせてご覧ください。
→【家族が認知症かもしれない。この先どうなる?】

アジテーションは認知症の周辺症状の中でも「対応が難しい」と感じる介護者が多い症状です。環境調整や非薬物的アプローチも重要ですが、症状が強い場合は薬物療法との組み合わせが検討されます。
レキサルティ(ブレクスピプラゾール)とは
2024年9月にアジテーション適応追加・国内初
レキサルティ(一般名:ブレクスピプラゾール)はもともと統合失調症・うつ病の治療薬として使用されていましたが、2024年9月に「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感・易刺激性・興奮に起因する過活動または攻撃的言動」の適応が追加されました。
国内でこの適応を持つ初めての薬剤であり、エビデンスに基づいて承認された点が大きな特徴です。
適応はアルツハイマー型認知症のアジテーションのみ
レキサルティの適応は「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感・易刺激性・興奮に起因する過活動または攻撃的言動」に限定されています。
✅ 適応あり:アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション(焦燥・興奮・攻撃的言動)
❌ 適応なし:レビー小体型・血管性・前頭側頭型など他の認知症のBPSD
❌ 適応なし:幻覚・妄想・抑うつ・アパシー・徘徊など上記以外のBPSD症状
BPSDにはさまざまな症状が含まれますが、レキサルティが対象とするのはあくまで「焦燥・興奮・攻撃的言動」というアジテーション症状に限られます。BPSDすべてに使える薬ではない点を理解しておくことが重要です。
⚠️ レビー小体型認知症では抗精神病薬に対して過敏性があり、少量でも高度の鎮静・パーキンソン症状の悪化など重篤な副作用が出るリスクがあります。特に慎重な対応が必要です。
作用機序:ドパミン・セロトニン部分アゴニスト
レキサルティはドパミンD2受容体およびセロトニン5-HT1A受容体への部分アゴニスト作用と、セロトニン5-HT2A受容体へのアンタゴニスト作用を持ちます。
完全なアンタゴニストである従来の抗精神病薬と異なり、受容体を適度に調整する「部分アゴニスト」であるため、過度な鎮静が起きにくいのが特徴です。
用量:0.5mgから開始・維持量1mg・最大2mg
用法・用量は以下の通りです。
📌 開始用量:1日1回0.5mg
📌 1週間以上の間隔をあけて1日1回1mgに増量(維持量)
📌 忍容性に問題がなく十分な効果が認められない場合に限り、さらに1週間以上の間隔をあけて1日1回2mgに増量可
高齢者への使用では特に少量から慎重に開始することが重要です。現場では0.5mgのまま維持されるケースも多く、0.5mgを半錠(0.25mg相当)で使用して効果が得られる患者さんもいます。一方で2mgまで増量しても改善が見られないケースもあり、効果には個人差が見られます。

レキサルティは「鎮静をかけずに焦燥・興奮・攻撃的言動を落ち着かせたい」というニーズに応えた薬です。ただし対象はアルツハイマー型認知症のアジテーションに限られており、すべてのBPSDに効くわけではありません。処方時には診断名と症状の確認が重要です。
他のBPSD治療薬との比較
BPSDに使われる主な薬剤と、レキサルティとの違いを整理します。
💊 抑肝散
🔸 種類:漢方薬
🔸 鎮静作用:あり(穏やか)
🔸 特徴:BPSDの第一選択として使われやすい。易刺激性・不眠・夜間せん妄に有効。副作用が少なく使いやすい。甘草含有のため偽アルドステロン症に注意。
💊 リスパダール(リスペリドン)
🔸 種類:非定型抗精神病薬
🔸 鎮静作用:強め
🔸 特徴:BPSDへの使用実績が豊富。幻覚・妄想・興奮に効果的。錐体外路症状・過鎮静・転倒リスクに注意が必要。
💊 セロクエル(クエチアピン)
🔸 種類:非定型抗精神病薬
🔸 鎮静作用:強め
🔸 特徴:鎮静・催眠作用が強く夜間の不穏に使われやすい。糖尿病患者には禁忌。過鎮静・転倒リスクに注意。
💊 エビリファイ(アリピプラゾール)
🔸 種類:非定型抗精神病薬(部分アゴニスト系)
🔸 鎮静作用:弱い
🔸 特徴:レキサルティと同系統の部分アゴニスト。アジテーションへの正式適応はなく適応外使用。過鎮静は少ないがアカシジアが出やすい。
💊 レキサルティ(ブレクスピプラゾール)
🔸 種類:非定型抗精神病薬(部分アゴニスト系)
🔸 鎮静作用:弱い
🔸 特徴:国内唯一のアジテーション正式適応薬。過鎮静が起きにくい。対象はアルツハイマー型認知症の焦燥・興奮・攻撃的言動に限定。

レキサルティとエビリファイは同じ部分アゴニスト系ですが、レキサルティはアルツハイマー型認知症のアジテーションへの正式な適応を持つ点が大きな違いです。「鎮静は不要だが焦燥・興奮・攻撃的言動を抑えたい」というケースでの選択肢として注目されています。
現場での効果の印象
在宅・施設の現場でレキサルティが処方されるケースとして多いのは、焦燥感・興奮・攻撃的言動が顕著な患者さんです。
家族や施設職員から聞く評価としては、「以前より落ち着いている時間が増えた」「妄想や作話が減った気がする」という良好な声がある一方で、「あまり変化を感じられない」という声も少なくありません。
用量の個人差は非常に大きく、0.5mgのまま維持されているケースも多く見られます。一方で最大用量の2mgまで増量しても改善が見られない方もいます。
「まず0.5mgから開始して1週間以上かけて慎重に評価する」というアプローチが現実的です。

訪問の現場では、薬を変えてから「夜の介護が楽になった」「表情が穏やかになった」という声を聞くことがあります。一方で効果が出るまでに時間がかかることもあるため、焦らず経過を観察しながら評価することが大切です。
注意すべき副作用
レキサルティを使用する際に特に注意すべき副作用を挙げます。
⚠️ 錐体外路症状
アカシジア(静座不能)・遅発性ジスキネジア・パーキンソン症状などが現れることがあります。高齢者では転倒リスクにもつながるため、歩行の変化・不随意運動に注意が必要です。
⚠️ 誤嚥性肺炎
抗精神病薬全般に共通するリスクです。嚥下機能が低下している高齢者では特に注意が必要です。
🚨 高齢認知症患者での死亡率上昇リスク
海外の臨床試験において、非定型抗精神病薬を投与された高齢認知症患者はプラセボと比較して死亡率が1.6〜1.7倍高かったとの報告があります。投与量・投与期間は必要最小限とすることが求められています。
⚠️ 高血糖・糖尿病の悪化
抗精神病薬全般のリスクです。血糖値のモニタリングが必要です。
CYP相互作用と用量調節
レキサルティはCYP2D6とCYP3Aの両方で代謝されます。これらの酵素を阻害する薬を併用すると、レキサルティの血中濃度が上昇し副作用リスクが高まります。
高齢の認知症患者さんは多剤併用が多く、CYP阻害薬が処方されているケースも少なくありません。処方内容を確認する際には必ずチェックが必要です。
📊 主なCYP阻害薬一覧と用量調節の目安
【CYP2D6阻害薬】
💊 パロキセチン(パキシル)→ 強い阻害
💊 テルビナフィン(ラミシール)→ 強い阻害
💊 デュロキセチン(サインバルタ)→ 中程度の阻害
💊 ミラベグロン(ベタニス)→ 中程度の阻害
【CYP3A阻害薬】
💊 クラリスロマイシン(クラリス)→ 強い阻害
💊 イトラコナゾール(イトリゾール)→ 強い阻害
💊 ボリコナゾール(ブイフェンド)→ 強い阻害
💊 ジルチアゼム(ヘルベッサー)→ 中程度の阻害
💊 ベラパミル(ワソラン)→ 中程度の阻害
【用量調節の目安】
📌 強いCYP2D6阻害薬 または 強いCYP3A阻害薬のいずれかを併用
→ 通常用量の半量を目安に調節
📌 中程度のCYP2D6阻害薬 かつ 中程度のCYP3A阻害薬の両方を併用
→ 通常用量の半量を目安に調節
📌 強いCYP2D6阻害薬 かつ 強いCYP3A阻害薬の両方を併用
→ 通常用量の1/4を目安に調節
(維持量1mgなら0.5mgを2日に1回、2mgなら0.5mgを1日1回)

高齢の患者さんではパロキセチン(うつ)やクラリスロマイシン(感染症)など、CYP阻害薬が同時に処方されているケースがよくあります。レキサルティが新たに処方されたときは、必ず他の処方薬との相互作用を確認してください。
まとめ
✅ レキサルティは2024年9月にアルツハイマー型認知症のアジテーション適応が追加された国内初の薬
✅ 適応は「焦燥・興奮・攻撃的言動」のみ。幻覚・妄想・徘徊・アパシーは適応外
✅ レビー小体型・血管性・前頭側頭型など他の認知症には適応なし
✅ 部分アゴニスト系のため過鎮静が起きにくい
✅ 0.5mgから開始・維持量1mg・効果不十分な場合のみ1週間以上あけて最大2mgに増量
✅ 錐体外路症状・誤嚥性肺炎・高齢者での死亡率上昇リスクに注意
✅ CYP2D6とCYP3Aの両方で代謝・阻害薬との併用時は用量調節が必須

レキサルティはアルツハイマー型認知症のアジテーションに対して新しい選択肢をもたらした薬ですが、適応の範囲・副作用リスク・CYP相互作用を正しく理解したうえで使うことが大切です。処方内容の確認・副作用のモニタリング・家族や介護職員との情報共有が、安全な使用につながります。

