胃ろうからの薬、「すりつぶす」より簡単で安全な方法があります

介護と薬

この記事でわかること

  • 粉砕法で起こりやすい問題
  • 簡易懸濁法とはどんな方法か(55℃のお湯の作り方も)
  • 簡易懸濁法のメリット
  • 施設と在宅での使われ方の違い
  • 対応できない薬もあること

「錠剤をすり潰して、お湯に溶かして」——経管栄養(胃ろう・経鼻胃管)から薬を投与する方法として、こう思っている方は多いのではないでしょうか。

実は、粉砕して溶かすよりも、チューブに詰まりにくく、手間も少ない方法があります。今回は「簡易懸濁法」という投薬方法についてお伝えします。

なぜ、錠剤をそのまま砕いて投与するのは難しいのか

経管栄養のチューブから薬を投与する際、これまでは錠剤をすり潰して粉末にし、水に溶かして注入する「粉砕法」が広く行われてきました。しかし、この方法にはいくつかの問題があります。

✅粉末が水に均一に溶けきらず、チューブが詰まりやすい
✅粉砕することで薬の安定性が変わったり、吸湿・光による分解が進みやすくなったりする
✅薬を準備する際、粉薬を吸い込んでしまうことによる健康被害のリスク
✅粉末になると錠剤の印字が失われ、薬剤の取り違えに気づきにくくなる

こうした問題を解決する方法として、「簡易懸濁法」という投与方法があります。以前から使われている方法ですが、粉砕法に比べるとまだ知られていない部分も多いように感じます。

Ph.そら
Ph.そら

「とにかく細かくすり潰せば安全」というわけではありません。粉砕にも、それなりのリスクがあります。

簡易懸濁法とは

簡易懸濁法は、錠剤やカプセルを粉砕したり開封したりせず、そのまま約55℃のお湯に入れて崩壊・懸濁させてから投与する方法です。手順はシンプルで、注入器(シリンジ)にお湯を入れ、そこに錠剤を入れて、最長10分ほど置くだけです。崩壊しにくい錠剤の場合は、あらかじめ表面に軽く亀裂を入れておくと、より崩壊しやすくなります。

なぜ55℃という温度なのかというと、薬局方の規定(体温に近い37℃前後で10分以内に溶けること)をもとに、放置中に自然に温度が下がっていくことを見込んで、少し高めの温度から始めるように設定されているためです。

【55℃のお湯の作り方】
電気ポットに温度設定機能があれば、60℃前後に設定して使うのが一番簡単で確実です。設定機能がない場合は、沸騰したお湯と常温の水道水を同じ量ずつ混ぜると、目安としておよそ50〜55℃になります。温度計があれば、念のため確認しておくとより安心です。

Ph.そら
Ph.そら

手順自体はとてもシンプルです。錠剤をすり潰す手間がなくなる分、準備の負担も減ります。

簡易懸濁法のメリット

簡易懸濁法には、粉砕法にはない、次のようなメリットがあります。

✅粉砕法よりも均一に、確実に懸濁するため、チューブが詰まりにくい
✅薬の安定性を、投与する直前まで保つことができる
✅錠剤の印字が投与直前まで残るため、薬剤の確認がしやすい
✅対応できる薬の種類が、粉砕法よりも多い

実際に、酸化マグネシウムの粉薬でチューブの閉塞を繰り返していた患者さんに対し、錠剤タイプへの変更と簡易懸濁法への切り替えを提案したことで、トラブルが解消したという報告もあります。

現場では、施設と在宅で選ばれ方が違います

実際の現場を見ていると、施設では時間的な制約から、粉砕法が選ばれることが多いのが実情です。多くの入居者の薬を限られた時間で準備する必要があるため、粉砕せずに投与できない薬(簡易懸濁法でなければ対応できない薬)に限って、簡易懸濁法が使われる傾向があります。

一方、在宅では、時間に追われることが少ないため、ご家族でも簡易懸濁法を無理なく取り入れられているケースが多いです。錠剤をすり潰す手間がなく、手順もシンプルなので、慣れれば粉砕法よりも簡単に感じる方も少なくありません。薬剤師としては、薬の安定性や、薬の変更があった際の対応のしやすさを考えると、可能であれば簡易懸濁法をおすすめしたいと考えています。

Ph.そら
Ph.そら

「時間がないから粉砕」というのも、現場の切実な事情です。ご家庭で余裕があれば、簡易懸濁法を選択肢に入れてみてください。

すべての薬が対応できるわけではありません

ただし、すべての薬が簡易懸濁法に向いているわけではありません。55℃という温度で成分が不安定になる薬や、腸で溶けるように作られた腸溶性の薬、ゆっくり溶けるように設計された徐放性の薬などは、基本的に簡易懸濁法には適していません。どの薬が対応できるかは、薬剤師が一剤ずつ確認する必要があります。

Ph.そら
Ph.そら

「この薬は簡易懸濁法で投与できますか」——これは、薬剤師にぜひ確認してほしい質問の一つです。

投与時に気をつけたいこと

懸濁した薬を投与したあとは、10〜30mL程度の水でチューブ内をフラッシュ(洗い流す)することが、閉塞を防ぐうえで大切です。また、投与後30分程度は上体を起こした姿勢を保つことで、逆流や誤嚥のリスクを減らすことができます。以前の記事でもお伝えした通り、誤嚥は肺炎のリスクにもつながるため、体位を保つことは服薬の場面でも意識しておきたいポイントです。

薬剤師にできること

経管栄養を行っている患者さんの薬について、簡易懸濁法に対応できるかどうかを一剤ずつ確認し、対応が難しい薬がある場合は、剤形の変更や薬の切り替えを医師に提案することも、薬剤師の役割の一つです。

また、複数の薬を服用している場合は、あらかじめ一包化しておくことで、投与のたびに何種類もの薬を個別に準備する手間を減らすことができます。錠剤が崩壊しにくい場合は、一包化の段階で軽く亀裂を入れておくといった工夫を行うこともあります。ご家族や介護者の方が投与方法に不安を感じている場合も、実際の手順を一緒に確認しながらサポートすることができます。

よくある疑問

10分待っても崩壊しない錠剤はどうすればいいですか?

錠剤の表面に軽く亀裂を入れてから、再びお湯に入れてください。それでも崩壊しない薬もあるため、繰り返し崩壊しにくい場合は、薬剤師に相談することをおすすめします。

今は粉砕法で対応してもらっていますが、簡易懸濁法に変えることはできますか?

はい、多くの場合、変更することができます。薬剤師が現在服用している薬をすべて確認し、簡易懸濁法に対応できるかどうかを一つずつチェックしたうえで、対応可能な薬から切り替えていくのが一般的な流れです。「チューブがよく詰まる」「粉砕の準備が大変」といった悩みがあれば、まずは薬剤師や訪問看護師に相談してみてください。

まとめ

✅経管栄養からの薬の投与は、粉砕法よりも簡易懸濁法の方がチューブに詰まりにくいとされています
✅簡易懸濁法は、約55℃のお湯に錠剤をそのまま入れて崩壊させる方法です
✅施設では時間の制約から粉砕法、在宅では簡易懸濁法が選ばれやすい傾向があります
✅すべての薬が対応できるわけではなく、薬剤師の確認が必要です

Ph.そら
Ph.そら

経管栄養からの服薬に不安や疑問があれば、遠慮なく薬剤師に相談してください。薬の形を変えるだけで、負担が大きく減ることもあります。

【参考文献】
・NPO法人PDN「経腸栄養時の薬剤投与・簡易懸濁法」
https://www.peg.or.jp/lecture/enteral_nutrition/10.html
・NPO法人PDN「簡易懸濁法による投薬の工夫」
https://www.peg.or.jp/care/kendaku/index.html
・金沢医科大学病院薬剤部「はじめての簡易懸濁法」
https://www.kanazawa-med.ac.jp/~yakuzai/wp-content/uploads/2024/11/簡易懸濁法はじめの一歩-ver18.2024年-.pdf

タイトルとURLをコピーしました