一包化は患者さんの服薬を助ける便利な調剤方法です。でも、その便利さの裏に怖い側面があることをご存知ですか?
今回は現役管理薬剤師として実際に経験したヒヤリハット事例をもとに、一包化の怖さと監査の重要性についてお伝えします。薬剤師の方にも一般の方にも知っておいてほしい内容です。
一包化とはどういうものか
一包化とは、複数の薬を1回分ずつ1袋にまとめる調剤方法です。朝・昼・夕・就寝前など服用タイミングごとに袋に分けられるため、飲み間違いや飲み忘れを防ぐことができます。
主に以下のような方が対象となります:
✅ 認知症など判断力が低下している方
✅ 複数の薬を服用している高齢者
✅ 疾患により手が不自由で薬をシートから取り出せない方
一包化は「錠剤分包機」という機械を使って行います。分包機にはPCが付属されており、薬剤師がPCに処方内容を入力すると機械が自動で分包する仕組みです。
分包機には「カセット」と呼ばれる薬を充填する容器があり、あらかじめ100種類以上の薬が入っています。PCへの入力内容に応じて該当するカセットから薬が取り出され、1回分ずつ袋に詰められます。
つまり:
・PCへの入力を間違えれば→間違った薬が分包される
・カセットに誤った薬が補充されていれば→処方にない薬が混入する
この2つがミスの主な原因です。
便利な反面、調剤ミスがあっても患者さん自身が気づきにくいという特性があります。だからこそ薬剤師の監査が非常に重要です。
処方されていない薬が混入していた。入力確認後に青ざめた瞬間
監査中に処方されていない薬が混入していることに気づいたとき、まず「PCへの入力を間違えたのでは?」と思い入力内容を確認します。でも入力内容が合っていた瞬間に青ざめます。これが本当の恐怖の始まりです。
このような経験が3回あります。
【事例①:リマプロストアルファデクスの処方にプラバスタチンが混入】
処方:リマプロストアルファデクス錠5μg 6錠/日
混入薬:プラバスタチン錠5mg
原因:見た目が非常に似ており分包機カセットに誤補充
リスク:通常用量の3〜6倍のプラバスタチンを服用することになり横紋筋融解症という重大な副作用発現の可能性があった
【事例②:チクロピジンの処方にクロピドグレルが混入】
処方:チクロピジン錠100mg 2錠/日
混入薬:クロピドグレル錠75mg
原因:見た目が非常に似ており分包機カセットに誤補充
リスク:通常用量の2倍のクロピドグレルを服用することになり脳出血などの重大な出血リスク
【事例③:ベタヒスチンの処方にジスチグミンが混入】
処方:ベタヒスチン錠6mg 3錠/日
混入薬:ジスチグミン錠5mg
原因:見た目が非常に似ており分包機カセットに誤補充
リスク:通常用量の3倍のジスチグミンを服用することになりコリン作動性クリーゼという重大な副作用のリスク(過去には死亡事例あり)
3つの事例に共通する怖い点:
いずれも処方用量の数倍の過量投与になっていました。見た目が似ている薬が誤って補充されたことで、気づかずに服用していたら命に関わる事態になっていた可能性があります。
シンプルな処方だから、という油断が招いた事例
処方:ロキソプロフェンナトリウム 3錠/日
ミス内容:1回3錠で分包→9錠/日の過量投与になっていた
原因:急いでいたこと・シンプルな処方のため監査を省略してしまった
気づいたタイミング:薬をセットする瞬間
リスク:消化器障害・急性腎障害などの重大な副作用リスク
「シンプルな処方だから大丈夫」「急いでいるから今回だけ」という油断が重大事故につながります。監査は絶対に省略してはいけません。
間違っていても患者が気づけない理由
「そんなミス、患者さんが気づくでしょ?」と思う方もいるかもしれません。でも一包化の対象となる患者さんはそもそも判断力が低下していることが多いのです。
だからこそ一包化のミスは怖い:
✅ 認知症の方は薬の内容を確認できない
✅ 手が不自由な方は袋を開けるだけで精一杯
✅ 高齢者は薬の種類や形を覚えていないことが多い
薬剤師の監査が重要なセーフティネットなのです。
ミスを防ぐためにできること
✅ 分包機カセットへの補充は必ず2人で確認する
✅ どんなにシンプルな処方でも監査を省略しない
✅ 急いでいるときこそ立ち止まって確認する
✅ ヒヤリハットは必ず記録・共有してチーム全体で再発防止に努める
【最新技術:AIによる一包化監査システム】
近年、AIを活用した一包化監査システムが登場しています。分包された薬を画像認識することで、処方内容と異なる薬が混入した場合に自動で検知してくれる画期的なシステムです。
ただし現実的な問題もあります。
・機器が大きく設置スペースが必要
・高いものでは1000万円前後と導入コストが高い
現時点では導入できる薬局は限られているのが実情です。だからこそ今は人による二重チェックと監査の徹底が最大の防御策となっています。
監査は絶対に省略してはいけない
今回紹介した事例はいずれも患者さんの手に渡る前に気づくことができました。でも監査をすり抜けていたら健康被害は免れなかった内容ばかりです。
一包化は患者さんの服薬を助ける大切なサービスです。その信頼を守るために薬剤師の監査は絶対に省略してはいけません。
機械によるミスはなくても、ヒューマンエラー(人的ミス)は必ず起こります。しかしその一つのミスが最悪の場合、命を奪う結果につながります。そこにはどのような言い訳も通用しません。今後もプロ意識を忘れずに、目の前の患者さんに向き合っていきたいと思います。

