アトピー性皮膚炎は「なかなか治らない」と感じている方が多い疾患です。でも現場の薬剤師として感じるのは、治療が上手くいかない理由の多くは薬の問題ではなく、正しく塗り薬を使用できていないことと、患者さん自身がかゆみの原因を理解していないことにあると思っています。
今回は現役薬剤師目線で、アトピー性皮膚炎の正しいケアと薬の使い方についてお伝えします。
アトピー性皮膚炎とは?増悪因子を知ることが大切
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が低下し、アレルギー性の炎症が繰り返し起こる慢性的な皮膚疾患です。
主な増悪因子:
✅ 汗・乾燥・摩擦などの物理的刺激
✅ ダニ・ハウスダスト・花粉などのアレルゲン
✅ ストレス・睡眠不足
✅ 食事(一部の患者)
✅ 季節の変化(特に冬の乾燥・夏の汗)
増悪因子を知っているだけでなく、実際に対策をとることが大切です。「知っているけどやっていない」という方が現場では多く見られます。
保湿こそがアトピー治療の基本中の基本
私がアトピー治療で一番重要だと思っているのが保湿剤の使用です。皮膚のバリア機能を補うことで、アレルゲンや刺激が侵入しにくくなり炎症を予防できます。
薬を塗る前に保湿をしっかり行うことが治療効果を高めます。保湿剤はステロイドなどの治療薬と並んで欠かせないものです。
正しい塗り方|タイミング・量・テクスチャーの使い分け
【塗るタイミング】
✅ 朝:着替えるタイミングで塗る
✅ 夜:お風呂上がりに塗る
朝は「着替えるとき」というルーティンに組み込むことで忘れにくくなります。
【塗る適正量:FTU(フィンガーチップユニット)】
外用薬の適正量の目安として「FTU(フィンガーチップユニット)」という単位があります。
人差し指の先から第一関節まで絞り出した量(約0.5g)=1FTU
これで手のひら2枚分の面積に塗るのが適正量です。
✅ 多くの方が塗る量が少なすぎる
✅ 薄く伸ばしすぎると効果が出にくい
✅ 塗った後に軽く光る程度が適正量の目安
「ちょっと多いかな?」と思うくらいの量が実はちょうど良いです。
【テクスチャーの使い分け】
刺激性:軟膏 < クリーム < ローション
べたつき:軟膏 > クリーム > ローション
✅ 炎症が強い時:軟膏がおすすめ(刺激が少ない)
✅ ベタつきが気になる時:クリームやローションに変更
炎症が強い時期はなるべく軟膏を選びましょう。
プロアクティブ療法|症状が治まっても塗り続けることが大切

プロアクティブ療法とは、炎症が治まった後も定期的に外用薬を塗り続けることで再燃を防ぐ治療法です。
【プロアクティブ療法の実践方法】
ステップ1:炎症期はステロイドを1日2回塗布してとにかく炎症を鎮める(1週間程度)
ステップ2:2週目からはステロイドの塗布を1日1回に減らす。保湿剤は1日2回を続ける。
ステップ3:その後症状が落ち着いてきても週2〜3回はステロイドを1日1回は塗布する。
徐々にステロイドの塗布間隔を広げていきましょう。後ほど紹介する塗り薬への変更も有効です。
症状が治まったからといって急に塗るのをやめてしまうと再燃しやすくなります。「調子が良い時こそ継続する」ことがプロアクティブ療法の核心です。
「ステロイドで皮膚が黒くなる」は誤解です
「ステロイドを塗ると皮膚が黒くなる?」という声をよく聞きますが、これは誤解です。
色素沈着の原因はステロイドではなく、炎症が十分に抑えられずに繰り返すことで起こる「炎症後色素沈着」です。つまり適切にステロイドを使って炎症を抑えることが色素沈着の予防にもつながります。
【実際に起こりうる局所性の副作用】
✅ 皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなる)
✅ 毛細血管拡張(特に顔面)
✅ 酒さ様皮膚炎(顔面の赤みやほてり)
✅ 感染症の誘発(カンジダ・ヘルペスなど)
✅ ニキビ(ステロイドざ瘡)
これらは正しい使い方をすれば通常の使用では起こりにくいものがほとんどです。ステロイドを怖がって使わない方が治療が長引き、結果的に皮膚への負担が増えることもあります。
ステロイドから他の薬剤への切り替え
ステロイドは即効性がありますが、長期間使い続けるには副作用の面から不向きです。プロアクティブ療法で炎症が治まってきたら、以下の薬剤への切り替えを検討しましょう。
ステロイド以外の外用薬:
✅ タクロリムス(プロトピック):顔面や首に有効。塗り始めや炎症が強い時は灼熱感が出やすい
✅ モイゼルト軟膏:新しい非ステロイド性外用薬で顔面やまぶたにも有効。軽症〜中等症向き
✅ コレクチム軟膏:JAK阻害薬で唯一の外用薬で長期治療向き
これらはステロイドと異なるメカニズムで炎症を抑えることと、皮膚が薄くなるという副作用がないため長期使用、プロトピック療法の寛解期に向いています。
重症アトピーに新しい選択肢が登場しています
アトピー性皮膚炎の中には塗布剤をきちんと使用していてもなかなか症状の寛解が難しい症例があるのも事実です。そのような重症のアトピー性皮膚炎に対して、近年注目の新薬が登場しています。
デュピクセント(デュピルマブ):
生物学的製剤の注射薬です。重症アトピーに高い効果があります。使用している患者さんからは非常に良好な反応が聞かれます。ただし現状は治療が高額となることや注射剤への抵抗感もあり、積極的に取り入れられていません。
JAK阻害薬(内服薬):
オルミエント・リンヴォックなど。重症例に有効ですがやはり治療費が高額となります。感染症リスクなど副作用の管理も必要です。
正しい知識と継続が治療の近道
アトピー性皮膚炎の治療はただ薬を塗るだけでなく、正しい塗り方・タイミング・継続することが大切です。
✅ 増悪因子を知って対策をとる
✅ 保湿剤を毎日使い健康な皮膚の状態を維持する。
✅ 正しいタイミングと量で外用薬を塗る
✅ 症状が治まっても継続塗布(プロアクティブ療法)
✅ ステロイドを正しく使い、必要に応じて他の薬剤へ切り替える
治療が上手くいっていない方の多くは、薬が悪いのではなく使い方に問題があります。正しい知識を持つだけで大きく変わることがあります。まずは薬剤師に塗り方を確認してみてください。

