高齢者の睡眠薬|種類と副作用・安全な薬の選び方を薬剤師が解説

介護と薬

📋 この記事でわかること
高齢者向け睡眠薬4種類の特徴と違い
転倒・物忘れ・依存につながる睡眠薬の見分け方
高齢者に比較的安全とされる新しい睡眠薬
長年飲んでいる睡眠薬を安全にやめるには
処方日数制限がある薬・ない薬の違い

高齢になると眠りは自然と浅くなり、夜中に何度も目が覚めるようになります。そのため、睡眠薬を長年飲み続けている方が非常に多いのが現状です。

ただ、睡眠薬ならどれでも安全というわけではありません。種類によっては、転倒・骨折・物忘れのリスクを高めるものがあります。特に高齢者は薬の影響を受けやすく、「よく眠れているから大丈夫」とは言い切れない場合もあります。

この記事では、睡眠薬の種類・リスク・高齢者に選ばれやすい薬について、現役薬剤師がわかりやすくお伝えします。

睡眠薬は大きく4つの種類がある

睡眠薬は作用の仕組みによって4つのグループに分かれます。それぞれ「どうやって眠りを促すか」「どんな副作用があるか」が大きく異なります。

① ベンゾジアゼピン系(BZ系)

代表的な薬:ハルシオン・レンドルミン・ニトラゼパムなど

脳の興奮を抑えることで眠りを誘う、古くからある睡眠薬です。効き目は強く即効性がありますが、筋肉の力が抜けやすくなる作用があり、高齢者では特に転倒・骨折のリスクが高まります。依存性も生じやすく、現在は高齢者への積極的な使用は推奨されていません。

② 非ベンゾジアゼピン系(非BZ系)

代表的な薬:マイスリー・アモバン・ルネスタなど

BZ系と仕組みは似ていますが、筋肉への影響が比較的少ないとされています。ただし、高齢者では転倒リスクがゼロになるわけではなく、慎重に使う必要がある薬です。「睡眠導入剤」として処方されることが多いグループです。

③ メラトニン受容体作動薬

代表的な薬:ロゼレム(ラメルテオン)

「眠りのホルモン」と呼ばれるメラトニンと同じ働きをする薬です。体内時計を整えることで、自然に近い眠りを促します。習慣性(依存性)がなく、筋肉の力が抜けることもないため、高齢者に安心して使えるタイプです。効果はおだやかで即効性は高くありませんが、安全性の高さから認知症の方や超高齢の方にも選ばれます。

④ オレキシン受容体拮抗薬

代表的な薬:デエビゴ(レンボレキサント)・ベルソムラ(スボレキサント)・クービビック(ダリドレキサント)・ボルズィ(ボルノレキサント)

「眠れない」のではなく「覚醒しすぎている」状態を改善する、最も新しいタイプの睡眠薬です。「オレキシン」という脳内の目を覚ます物質の働きをブロックすることで、自然に近い眠りを促します。転倒リスクが低く、臨床試験でも認知機能への影響が少ないことが確認されており、現在高齢者に最も積極的に使われるようになっています。

Ph.そら
Ph.そら

4種類の中で今一番注目されているのがオレキシン受容体拮抗薬で新薬も次々と発売されています。「覚醒スイッチをオフにする薬」とイメージするとわかりやすいです。
今後、高齢者に限らず睡眠薬の主役になっていくと思われます。

高齢者がBZ系睡眠薬を飲み続けると起こりやすいこと

「ずっと飲んでいるから大丈夫」と思っていても、高齢者はBZ系睡眠薬の影響を受けやすくなっています。代表的なリスクを3つお伝えします。

夜中のトイレで転倒しやすくなる

BZ系睡眠薬には筋肉の力を抜く作用があります。夜中にトイレへ行こうとしたとき、足に力が入らずふらついて転倒するケースが在宅現場でも少なくありません。

⚠️ 高齢者の転倒・骨折は、そのまま寝たきりにつながることがあります。「転ばなければいい」ではなく、転倒リスクを下げる薬選びが重要です。

物忘れ・ぼんやりが増えることがある

BZ系を長期間飲み続けると、記憶力の低下や日中のぼんやり感が出ることがあります。「最近なんとなくぼーっとしている」「物忘れが増えた気がする」という変化の背景に、睡眠薬の影響が隠れていることもあります。認知症と間違えられるケースも現場では経験しています。

薬がないと眠れなくなる(依存)

長年飲み続けると、薬なしでは眠れない状態になりやすいです。また急にやめると、かえって眠れなくなったり、不安感や動悸などの症状が出ることがあります。「もう何十年も飲んでいる」という方が在宅現場には多く、急にやめることは逆効果になります。

Ph.そら
Ph.そら

「この薬を飲まないと眠れない」とおっしゃる患者さんはとても多いです。でも実は薬への依存が原因のことも。急にやめるのではなく少しずつ減らしていく、他の安全な薬に徐々に置き換えていくことが大切です。

高齢者に比較的安全とされる睡眠薬

在宅訪問の現場では、ここ数年で高齢者への処方が大きく変わってきました。転倒リスクが低く、依存性もない新しい薬が積極的に使われるようになっています。

デエビゴ(レンボレキサント)

現在の在宅現場で最もよく見かけるようになった睡眠薬です。寝つきが悪い方にも、夜中に目が覚めてしまう方にも効果があります。転倒リスクが低く、少量(2.5mg)から始められるため、高齢者にも使いやすい薬です。

ロゼレム(ラメルテオン)

依存性がまったくなく、体内時計を整えることで自然な眠りを促す薬です。効き目はおだやかですが、認知症の方や介護が必要な高齢者に安心して使える点が大きなメリットです。デエビゴなど他の薬と組み合わせて使われることも多いです。

💡 2026年7月には、ラメルテオン(ロゼレムの成分)を配合した市販薬「ロゼレムS」が発売予定です。これまで処方箋が必要だった薬が薬局で購入できるようになります。ただし要指導医薬品のため、初回は薬剤師からの説明が必要です。

ベルソムラ(スボレキサント)

デエビゴと同じグループの睡眠薬です。転倒リスクが低く、依存性もありません。一部の抗生物質など他の薬と飲み合わせに注意が必要なことがあるため、他に薬を飲んでいる方は医師や薬剤師に確認することをおすすめします。

クービビック(ダリドレキサント)

デエビゴ・ベルソムラと同じオレキシン受容体拮抗薬の仲間で、2024年に発売された比較的新しい薬です。25mgと50mgの2規格があります。日中の眠気が残りにくい点が特徴で、翌朝の活動への影響を気にされる方に向いています。転倒リスクが低く、依存性もありません。

ボルズィ(ボルノレキサント)

2025年11月に発売された、オレキシン受容体拮抗薬の中で最も新しい薬です。大きな特徴は半減期が約2時間と4種類の中で最も短いこと。薬が体から早く抜けるため、翌朝への持ち越し(眠気・ぼんやり感)が少ないとされています。寝つきが悪い入眠困難タイプの方に向いており、2.5mg・5mg・10mgの3規格で少量から始められます。転倒リスクが低く、依存性もありません。

Ph.そら
Ph.そら

「眠れさえすればいい」ではなく、翌朝もしっかり動けることが大切です。特に高齢者は、夜中のトイレで転ばない薬を選ぶことが重要です。

長年飲んでいる睡眠薬を安全にやめるには

「今は特に困っていないし、変えることで眠れなくなったら嫌だ」——睡眠薬の見直しを提案すると、こうおっしゃる方がとても多いです。その気持ちはよくわかります。ただ、今のうちに少しずつ安全な薬に切り替えておくことが、将来の転倒・骨折リスクを下げることにつながります。必ず医師の指示のもとで進めてください。

まず主治医や薬剤師に相談する

「この薬を減らしたい」「別の薬に変えたい」と思ったら、まず主治医か薬剤師に伝えましょう。在宅訪問の薬剤師がいる場合は、訪問のときに「最近ふらつくことがある」「眠りの質が気になる」と伝えるだけでも、薬の見直しのきっかけになります。

少しずつ減らしていく

睡眠薬の減量は、少しずつ時間をかけて行うのが基本です。急にやめると眠れなくなったり、不安や動悸などの症状が出ることがあります。数か月かけてゆっくり減らしながら、新しい薬に切り替えていくことが一般的です。焦らず、体の変化を見ながら進めることが大切です。

Ph.そら
Ph.そら

「今は困っていないから変えたくない」という気持ちはよくわかります。でも高齢になるほど薬の影響は出やすくなります。「転んでから」では遅いので、元気なうちに少しずつ見直しておくことが大切です。

睡眠薬には「30日しか処方できない薬」と「制限のない薬」がある

「なぜ睡眠薬だけ30日分しかもらえないの?」と思ったことはありませんか?これは薬の種類によって、法律で処方できる日数の上限が決まっているためです。ただし、すべての睡眠薬が30日制限というわけではありません。

30日制限がある睡眠薬

BZ系・非BZ系の多くは「向精神薬」に指定されており、依存性や乱用のリスクを防ぐために1回の処方は最大30日分と決められています。マイスリー・ハルシオン・レンドルミンなどが該当します。30日ごとに受診が必要になるため、通院の負担が生じます。

処方日数に制限がない睡眠薬

一方、ロゼレム(メラトニン受容体作動薬)・デエビゴ・ベルソムラ(オレキシン受容体拮抗薬)は向精神薬に該当しないため、処方日数に法律上の上限がありません。医師の判断で60日・90日分などの長期処方が可能です。

つまり、安全性が高い新しい薬に切り替えることで、毎月の受診が2か月に1回や3か月に1回に減らせる可能性があります。「通院が大変」という方にとって、これは大きなメリットになります。

Ph.そら
Ph.そら

「毎月病院に行くのが大変」「睡眠薬だけもらうためだけに受診しないといけない」というお声をよく聞きます。安全な薬に切り替えることで受診の回数を減らせる場合があります。これも薬を見直す大きな理由のひとつです。

まとめ

✅ 睡眠薬にはBZ系・非BZ系・メラトニン受容体作動薬・オレキシン受容体拮抗薬の4種類がある
✅ BZ系は転倒・物忘れ・依存のリスクがあり、高齢者への積極的な使用は推奨されていない
✅ 高齢者にはデエビゴ・ロゼレムなど転倒リスクが低い薬が選ばれるようになっている
✅ BZ系などの向精神薬は30日処方が上限。新しい薬は日数制限がなく長期処方が可能
✅ 「今は困っていない」でも、元気なうちに安全な薬に切り替えておくことが将来のリスクを減らす
✅ 「最近ふらつく」「ぼんやりする」と感じたら、睡眠薬が原因かもしれない

Ph.そら
Ph.そら

高齢者の睡眠薬は「眠れればOK」ではありません。安全に、そして翌朝も元気に過ごせるかどうかが大切です。気になることがあれば、ぜひ薬剤師に声をかけてみてください。

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